“関東の雄”から“ニッポンの雄”へ。11回目の今夏の夢舞台が、昇華のタイミングなのかもしれない。過去に銀メダルが1個、銅メダルが3個。残る「黄金のメダル」への本気度が、今年は手練れの首脳陣からもうかがえる。客観的に見ても、文句なしの優勝候補だ。とりわけ、2024年を迎えてからの進化と躍進は目覚ましいものがある。
(写真&文=大久保克哉)
※茨城大会決勝リポート➡こちら
時は来た!! 関東から“ニッポンの雄”へ飛翔が始まる
くきざき茎崎ファイターズ
[茨城/1979年創立]
出場=2年連続11回目
初出場=2001年
最高成績=準優勝/2019年
【全国スポ少交流】
出場=2回
県決勝は6年生10人が全員出場。「めっちゃ緊張しましたけど、めっちゃ出られてうれしかったです。茎崎はベンチもみんなサポートできて、試合に出ている人たちも優しいです」(代打出場の西山光=写真上)
【県大会の軌跡】
1回戦〇9対6波崎ジュニアーズ
2回戦〇10対0古河プレーボール
3回戦〇10対3オール東海ジュニア
準決勝〇7対0上辺見ファイターズ
決 勝〇9対1水戸レイズ
“昇り龍”と“レベチ”の如く
前年に続く全国出場。これが決まるまでは決して外には漏れてこなかったが、吉田祐司監督は新チームの始動当初から、5・6年生たちにこう言い続けてきたという。
「今までは県大会がスタートラインだったけど、オマエたちは全国大会がスタートラインだよ!」
掛け値なしに、それだけの潜在能力があったということだ。そしてそれを着実にチーム力へと落とし込みながら、結果を出してきた。
どれだけ、それが難しいことか。キャリアの長い学童指導者ほど、よくわかるところだろう。
4年生の代では輝かしい実績を残しながら、2年後の6年時は泣かず飛ばすというチームも少なくない。あるいは5年時までの「経験」という貯金にものを言わせて、秋の新人戦は突っ走るも、やがて息切れ。そして年明けからはライバルの後塵を拝する、というケースもありがちだ。
全国出場を決めた選手たちを指揮官はまず拍手で迎えた
そこへいくと今年の茎崎の歩みは、まさしく“昇り龍”。秋の新人戦は県決勝でコールド負けも、2024年に入ると破竹の勢いで大会をことごとく制してきた。またその根底には、泥くさい積み重ねもある。
「3月の春休みから、佐々木(亘)コーチがみてくれて、平日練習もずっとやっています」(吉田監督)
堅守と勝負強さが際立ってきたのは、その春休み中に始まった東日本交流大会だった。準決勝では、無敵だった新人戦の関東王者・船橋フェニックス(東京)に、逆転勝ちで初黒星をつけた。続く決勝は、昨夏の全国準Vの不動パイレーツ(東京)と2イニングに渡る特別延長戦の末に、スクイズで決勝点を奪い優勝(リポート➡こちら)。
エースの佐藤映(上)と正捕手の藤城主将(下)は、昨夏も先発バッテリーで全国デビューしている
そして6月の全国予選の県大会は、抜きん出た総合力で危なげなく勝ち進んで2連覇を達成した。
「プレッシャーはまぁまぁ、ありました。優勝はうれしいですけど、去年のほうがめっちゃ、うれしかったです。今年は3回戦に勝って、自分的にはもういけると思っていました」
こう話したのは、正捕手で三番を打つ藤城匠翔主将。偽りのない本音だろう。ポイントに挙げた3回戦の相手は、昨秋の新人戦の県決勝で敗れたオール東海ジュニアだった(リポート➡こちら)。
オール東海は昨秋に投手二本柱を形成したうちの一人が、県外への転居に伴い移籍。一方の茎崎はヒジ痛で昨秋は未登板だったエースが完全復調と、リマッチを前に戦力にプラスマイナスがあった。とはいえ、10対3の5回コールドで雪辱した茎崎は、その後も“レベチ”を示し続けた。終わってみれば、2回戦から決勝まで4試合連続でコールド勝ちという、圧巻の勝ちっぷりだった。
闘志を内に秘める大類は、昨秋から外野守備や小技での貢献度が光る
「うれしくないことはないですけど、この後の全国がメインなので、まだ途中という感じです」と、エース左腕の佐藤映斗。決勝はあわや5回完封という快投も演じたが、1年前の県優勝時のようにマウンド近辺で歓喜の輪をつくることもなかった。
透けてくる自信と根拠
たとえば、背番号5の藤田陽翔。三塁手兼投手の6年生右腕は、左打席から逆方向へも長打があるが、何より際立つのは鉄壁の三塁守備だ。
バント処理も適切で確実。二死三塁での緩いゴロなど、地味に嫌な状況でも一塁への送球が決してブレない。筆者は今のチームを10試合近く取材しているが、彼の悪送球は見た記憶がない。
藤田の三塁守備は、猛練習で鉄壁の域まできている
打球が三塁方面に転がったときの安心感。これは昨年日本一の新家スターズ(大阪)も想起させるが、吉田監督は「そんなことないです。まだまだですよ」と、やんわり否定した。
「ただ、藤田も元々がそんなに動きの良いほうではなかったので。やっぱり、練習量ですね。これで自信をつけたんだと思います」(同監督)
勢いと結果に任せるだけではない。チームと選手個々を常に把握して、やるべきことと優先順位を明確にしながら、徹底的につぶして今があるのだろう。藤田という選手に限らず。
全国予選は、どの相手も圧倒した。真っ先に目を奪われたのは打力だが、バントの精度は前年同様に高い。著しい進化は足技だった。盗塁の数と成功率と内容が突出している。
決勝は先制3ランなど四番・川崎愛斗の一人舞台とも言えた中で、全体で決めた二盗が6個。100%の成功率で、しかもすべてが次打者の3球目までに企図して、より優位な状況で攻めることができていた。
折原は県決勝、次打者の初球での二盗を2つ決めている
相手バッテリーも能力は低くないし、警戒もしていた。それでも、次打者の初球で盗塁を2つ決めた折原颯太は、チーム全体で実用的な走塁をものにした理由をこう話している。
「走塁の練習もみんなですごくやってきています。盗塁はエースのエイトさん(佐藤映)とか、右ピッチャーのボクとかを相手にして、本気で勝負しながら」
指し示す“四本の矢”
打線は一番の石塚匠(5年)、三番の藤城主将と四番の川崎あたりは、サク越えアーチが珍しくない。しかし、この3人も例外なく、バットを常に短く持ってスイングしている。
時代や道具は移ろえども、譲れない哲学がそこにはあるのだろう。1979年に誕生したチームには、OBの指導者が多いのも伝統。中でも5・6年生チームでベンチ入りする3人には、四半世紀に迫るキャリアの中で築いてきた絆もある。
県大会3本塁打の四番・川崎も例外なく、グリップエンドを余して握っている
満51歳の吉田監督と背番号29の佐々木コーチは同級生で、28番の茂呂修児コーチは2人の後輩にあたる。おそらく、吉田監督の男前な人間性とリーダーシップがそうさせるのだろう、不協和音は一度もないという。いつでも以心伝心、試合中の役割分担もはっきりとしている。
作戦遂行の判断と選手に伝えるのはもちろん吉田監督。だが、常に全体に目が行き届くはずもなく、内外野の8人を主に動かすのは佐々木コーチだ。茂呂コーチはよく通る声で状況を内外へ伝えつつ、巧みな言い回しで注意や準備も促す。さらには選手の内面を読み取って、個別にフォローしている。
レギュラーの5年生トリオも頼もしさを増している。上から石塚、佐々木、佐藤大
昨秋の新人戦決勝や今春の東日本交流大会など、吉田監督が仕事で欠ける日もあった。それでも、指揮官の穴を露呈するような動揺やマイナスの変化は見られず。監督代理を務めていた佐々木コーチが言う。
「指導陣はずっと一枚岩で、誰が所要で抜けても影響なく、練習も試合もやれるのはウチの強みのひとつですね」
試合中もメモを取る小林コーチ。3人の首脳陣で行き届かないあたりを、さりげなくフォローする姿も印象的
彼ら首脳陣3人がまた感心するのは、全国出場10回や同準優勝などの実績を鼻に掛けたり、胡坐をかいたりしないこと。だから、交流にも隔てがない。先述のバットの握りのように譲れない部分もある一方で、人の意見や異論、最先端や世情に向ける目や耳も持っている。
その象徴とも言えるのが、主にマネジャーとしてベンチに入る、小林拓真コーチの存在と働きぶりだ。3人より、ひと回り以上も若い同コーチは、試合中は対戦相手の機微までを注視しながら戦術やクセを読むなど、今では頼もしい参謀役。また試合前のウォーミングアップや試合後のミーティングでは、先駆的な取り組みを主導する。選手たちの口から「拓真コーチ」のフレーズが聞かれることも増えている。
それこそ“三本の矢”ならぬ“四本の矢”だ。その先端が指し示すのは、いずれも最上の高み、ただ一点のみ。信じる選手たちとそこを射抜いた暁には、今回の県2連覇では見られなかった胴上げもあるだろう。
右から吉田監督、佐々木コーチ、茂呂コーチ、小林コーチ
「相手もあることなので、『胴上げはやめて!』と今回は後援会に伝えておいたんですよ。勝ってやるほうはいいけど、逆の立場になったら、あまり良いものではないので。では日本一になったら? そのときはね、もちろん! 今までとは違うチーム力もありますし、正直、茨城では負けちゃいけないチームになってきているので。全国からがホントにスタートです」(吉田監督)
45回目の夏、2年連続11回目の夢舞台。間違いなく、機は熟している。
【県大会登録メンバー】
※背番号、学年、名前
⑩6 藤城 匠翔
①6 佐藤 映斗
②6 牧内 志生
③6 川崎 愛斗
④6 渡部 力斗
⑤6 藤田 陽翔
⑥5 石塚 匠
⑦6 折原 颯太
⑧6 大類 拓隼
⑨6 下村 芽吹
⑪6 西山 光
⑫5 佐々木瑠星
⑬5 佐藤 大翔
⑭5 野苅家快成
⑮5 渡部 竜矢
⑯5 山﨑 修眞
⑰5 関 凛太郎
⑱5 本田 大輝
⑲5 齋藤 琉衣
⑳5 筒井 亮太
㉑5 高橋 慶次
㉒5 早川 幸義